10、黒猫と花人形のうた





不審者がいる。不審者だ。というか近藤局長だ。

「っ何やってるんですかっ」

は小さく叫んだ。
局長は電柱の影に隠れてこそこそとしていた。 いや隠れられてない。

「何があったんですか。そんなストーカーみたいなことして…」

つーと局長の視線の先を見る。女性がいた。美しい妙齢の婦人だ。
…なんと局長はストーカーだった。

「まあ聞いてくれよ。すごくいい人なんだ。誰にでも優しくて思いやりがあって、しかも美しい」

「はあ…そうですか…」

「捨てられてた子猫に毎日餌とかやっててさ。ホントに優しいんだよ。この間もケガして飛べなくなった鳥を拾って手当てしてたんだ」

…彼女の人間性がどうというよりそれ全部見てたんですね、局長。
可哀相なゴリラも拾ってくれるんじゃないですか。とは言わなかった。





「副長ー…局長が…局長が…」

副長室に入るなり力なくはつぶやいた。

「どうかしたのか」

「その…美しい女性を、こう…電柱の影からじっと…」

直接的な表現をするのはさすがに抵抗があって、必死で回りくどく説明する。

「ああ…陰からじっと……」

土方は遠い目をして言った。だがさすが、腐っても真撰組副長ですぐに我を取り戻したらしい。

「その女性の素性を調べてくれ」

今度は遠い目をするのはの番だった。

「…はい了解しました。やらなきゃいけないんですね。やっぱりそうなるんですね」

「……悪いな」

土方の口調はちっとも悪いと思っていない。

「てゆか局長止めなくていいんですか。アレ警察沙汰になりますよいつか」

「警察は俺達だ。何の問題がある」

「ああそうですね。どこにも問題なんてありませんよね」

幸か不幸か、善良な突込みを入れてくれる人物はここにはいなかった。







とりあえずは局長に話を聞きに行く。

「彼女は俺の天使だ」

「いえそういうことを聞いているのではなく……その、どこで知り合ったのですか」

「ああ、は行った事がないんだっけ?彼女は屯所の傍の喫茶店『あさねぼう』の主人だよ」

精神的苦痛はこの際置いておくとして、楽そうな仕事だ。簡単に素性が知れて、客商売ならうわさも集めやすい。ただ、こんな仕事はしたくない。







「で、報告です。一応」

場所は屯所からは少し離れたファミレス。こんな情けないこと屯所では話せやしない。
ちなみにの頼んだ昼食の日替わり和膳は副長のおごり。

「佐々木美保28歳。独身で屯所のそばで喫茶店をやってます。住所は屯所のすぐ傍のマンションですね。局長の話しどおり近所の評判はすごくいいです。めちゃくちゃいい人らしいです」

「そうか」

副長はスプーンを口に運ぶ。は決して土方の手元を見ようとはしなかった。
そしてテーブルの中央には巨大な、クリーム色で半液体のドロドロしたものでみたされた赤いキャップのボトル。はマヨネーズが余り好きではない。

だが最初に一緒に食事をした時の衝撃から醒めれば、もう単純に脳内で映像処理を施すのみだ。つまり、私は何も見えない。
人の好みに文句はつけられないというのがの考え方だ。

「…それで副長。まだ一つ報告が残ってまして」

再びが話を仕事に戻したのは、食後。土方が煙草に火をつけた頃だった。

「佐々木美保は、ヤクザの愛人です」

は息を吐くように言った。








(人称変えました。分かりづらくてすいません)

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