2、僕たちは浮遊する下等生物


剣道大会の後、みんなして酒盛りになだれ込んだ。私も飲めないほうではないし、飲む。汗をながした後のビールは最高だ。

「なかなかやるねィ。あのクソひじか……副長に飛び掛るなんて」

となりに座っていた新隊士とダベっていたら、まだ若い恐らくは私と同じくらいの年齢の美少年に話しかけられてしまった。ところで何か物騒な言葉を聞いた気がするが、酒の席なので聞かなかったことにする。
何故だか、隣に座っていた新隊士は居住まいを正した。

「…お恥ずかしい限りで」

私は苦笑で応じる。美少年は、持っていた一升瓶から私のコップに酒を注いでくれた。どうやらもうすでに大分のんでいるようだ。出来上がった様子で私たちの正面に座り込む。

「いただきます」

注がれた酒を一口二口と飲んで、ふと思い当たった。

「もしかして、試合の時『死ねー…』の総悟さん?」

故意に後半はぼやかして訊ねると、ニヤニヤ笑いでが返ってきた。隣の新隊士の表情が強張っていく。

「おかげで副長に隙ができてあと少しで勝てそうでした。ありがとうございます」

私もにやにやと笑った。

「だろィまあ飲め飲め」

「いただきます」

「あの野郎がセクハラしてきたら俺に言え。ぶった斬ってやるぜィ」

沖田さんは危ない事を平気で述べ

「ダメですよーセクハラするような最低な人は私がこの手ででしとめないと気がすみませんからー」

それに当たり前に返事した私もしたたかに酔っていたのだと思う。

「おうお前ら同い年かー?」

近藤局長は既に半裸で、(でもきっと全裸になりたかったのを自重したんだなという、そんな気がする)うまくろれつが回っていなかった。

「え、そうなんですか沖田さん」

「こころはいつも十代だぜィ」

「ガラスの十代!イエーイ!」

「イエーイ!」

「いや、お前らホントに十代だし。あと近藤さん服ちゃんと着ろよ」

やってきてまっとうな突っ込みをいれた土方副長はまだそんなに飲んでいないようだ。というかさっきまではいなかった。

「こんな場所で話すことじゃないが、。コレ」

副長はおもむろにポケットに手を突っ込むと、鍵を取り出した。隣では沖田さんと近藤さんが歌いはじめる。歌詞を聞いてもメロディを聞いても誰の曲かは分からなかった。

「一応幹部ようにと思って作った洋室なんだが誰も使わなかったから。シャワー室もある」

「あの、でもそんな…良くしてもらったらあんまり…」

「遠慮すんな。いくらなんでも鍵くらいないと無用心だろう。ココにある部屋で鍵がかかるのはそこだけだ。女性隊士が増えるようならまた何か考えるが、今のところそんな予定はねェ」

「……使わせていただきます。あの、お気遣いありがとうございます。手数かけてすいません」

「全くだ。でもお前が気にする事じゃねーよ。…そして俺の仕事でもないんだけどな」

「はぁ…そうですよね。『副長』ですからね」

「いつもこういうこと押し付けるヤツが出払っててな。全く必要な時に居やがらねェんだよ。だからといって他に気のきくやつもいねーし」

ひょっとして私は愚痴られてるのだろうか。とりあえず副長の立場が大変なことは分かった。その上、雑事を任せられる人間が少ないのも、この真撰組だ。納得がいかないでもない。性格もあるのだろうか、結局は副長直々にやらざるを得ないというわけだ。何故だろうか、深く同情してしまった。

「それは本当に大変ですね。まあ飲んでください」

沖田さんが放置している一升瓶から副長のコップになみなみと注いでやった。あんまり行儀が良くないことは承知しているがそんなこと気にする人たちでないのは見ていて分かる。副長は一気にそれを煽った。

沖田さんは新隊士たちに「オレの酒が飲めねェっていうのかィ」なんていいながら怖がらせている。仕事の初日から二日酔いで苦しませるつもりなのだろうか。だがそんなことを気にしている人は他にいない、そんな気がした。



そして私は副長に酒を飲ませたことを後悔するのだ。
だって鬼副長がこんなに酒に弱いなんて普通思わない。






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