3、問題ありのスカイブルー




「これが噂の女隊士ねぇ。ふーんそんなトコおいとくのは勿体ねぇな。」

ひどくガラの悪いスキンヘッドの男は言った。私の見立てでは腕もそこそこの下っ端といった感じだ。
普段ならそんな失礼な発言には回し蹴りの一発でもお見舞いしているところだが、今はそうも行かない状況にあった。端的に言うと、とらわれている。
現在腰の刀は奪われ、両手は背中の後ろに何か縄のような物で縛られていた。その状態で私は部屋の中心で胡坐をかいて座っているいる。
屈辱である。その上、生命の危機ですらある。
おそらく遅かれ速かれ私は殺されることになるのだろう。無事に解放されるなんて思っていられるほど楽観的ではない。

勿論、冷静ではいられない。だが、恐怖心に駆られて冷静な判断力を失う事の無意味さを心にとどめておくだけの度胸はあった。
危険に対する覚悟はある。そういう仕事だということは了承している。
こういう目にあう可能性だって考えた事がないわけではない。
とりあえず、落ち着いて。最善を尽くすだけだと、あせる自分に何度もいいきかせる。



私は一番隊の先輩の指導の下で市中見廻りをしていた。新人研修の一巻である。
運転していたのは先輩のほうで、ゆっくりとしたスピードでパトカーを走らせていた。途中、繁華街の一歩奥へ入り込み少し休憩しようとした。一旦車を止め、先輩は一服しようと窓を開ける。
その時だった。

いかにも社会の裏側に属するといった風情の男性数人が武具を構えて、パトカーを取り囲んだ。
咄嗟に刀に手をかけた私は、運転席の先輩を見て動きを止めざるを得ない。
先輩は頭に拳銃を突きつけられ、瞬く間に車のキーを奪われていた。

「女、降りろ」

私のことだろう。それ以外には解釈の仕様がない。
先輩に拳銃を突きつけていた男が集中ロックを解除し、窓越しに私に拳銃を突きつけていた男が扉を開けた。
ご丁寧にどうも、と心中で悪態をつく。
半ば皮肉も込めて頼まれもしないのにホールドアップして立ってやった。

「何が目的ですか」

「…後ろを向いて立て」

質問に対する返事は得られず、私は言われた通りにする。両手をとられ、紐のようなものを巻きつけられ、きつく縛られている間私はじっと先輩を見ていた。
もし私一人だったら多少無茶をして刀を抜いただろう。
おそらく先輩が一人でも同じ選択をしただろう。
だが、人質をとられるというのは厄介だ。この場合お互いがお互いの行動を妨害した。

そして私は目隠しをされ、愛刀を奪われてここに至る。先輩がどうなったかは分からないが、銃声は聞いていないから恐らく撃たれてはいないのだろう。
もし無事なら隊に連絡がいっているだろうし、無事でないとしても遅かれ早かれ異変には気付くはずだ。


冷静に思考することはできる。まだ大丈夫、落ち着いている。そんなことを考えているのこそが動揺している証拠で、つまり私は怖いのだ。
後手に縛られた両手が、痺れのせいでなく震えているのは否定のしようがなかった。






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