4、見離されたダークブルー


「よう、勇ましいね。お嬢さん」
見たことのない顔の男が、入ってきた。
入れ違いに、スキンヘッドの男は部屋の外に出る。その男の指示だ。
私以外何もない部屋である。何の障害物に邪魔される事もなく男は悠々と私の目の前に立った。
何となく、この男が首謀者だと、そんな気がした。少なくとも小物ではない。三十代だろうか、そういった方面の眼力について余り自信はないが、その他の男達よりは年が行っているようだった。
服装も、チンピラ染みてはおらずむしろまっとうな様子だ。だが腰には武士の誇り、刀を帯びているのだ。

「お嬢さん、ね。そんな風に見えます?」

「見えるさ。怖いんだろ?」

男は笑みを浮かべて言った。それはとてもサディスティックな喜びに満ちていた。

「助けてって泣けばいい。そうすれば奴等だって哀れんで、助けてくれるかもしれない」

「そう……真撰組と交渉したんですね。で、断られた。まあ当然ですよね」

私も笑みで返す。嘘偽りのない本心だったからこその、完全な微笑だ。

「まだ断られちゃいない」

だが男はあざけるようにして言った。
私は、驚きで一瞬思考が停止する。
どうして…どこに迷う理由があるのだろう。
局長や副長が人質ならまだしも、私は一隊士だ。
それはとても予想外なことだった。

「ねぇ一体何を要求したの?」

「捕らわれた仲間の解放を」

男は、携帯から電話をかけ始めた。そしてもったいぶった様子でちらとこちらを見、口元を歪ませて笑うのだ。

「どうだ、要求を呑む気になったか」

口ぶりからも状況からも相手は真撰組だろうと予想がつく。

『ちょっとまってくれ。人質と話させてくれ。本人かどうか確かめたい』

スピーカーを通して聞こえたのは副長の声だった。
そして電話が私につきつけられる。





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